「大総統キング・ブラッドレイの名において、汝・に銘『氷炎』を授ける」
氷炎 ICE BLAZE by天地朱子
ここはイシュヴァール殲滅戦が行われている戦場にある佐官専用のテント。
そして、その中には後に英雄と讃えられるロイ・マスタングが、その功績を生む右手をじっと見ていた。
そして、そのロイに膝を枕として貸している・はそれを見守っていた。
「私の焔は穢れていると思わないか?」
「私の炎も汚れている?」
そう切り返されたロイはの意図に気が付いて苦笑いを浮かべた。
「の『炎』にいつも助けられているな」
「ロイの『焔』があるから、『私』は『私』でいられる」
小さく笑いあってから、ロイはふと思ったことを口にした。
「、君はなぜ平気なんだ?」
「……『焔』と『戦場』になれている理由のこと?」
「ああ。君がいなければ、私は単独行動をするしかなかった」
「……昔、感情に任せて大人数を消し炭以下の『無』にしたことがあるから」
という、の言葉の真意を実感させられているロイは、ただ名を口にすることしか出来なかった。
「……」
「その所為で、そういった状況に対しての感覚が麻痺しているから」
「そ……」
何かをいおうとする言葉を遮るように、はロイを強く抱きしめてから言った。
「もう、寝た方がいい」
がロイを抱きしめる時のぬくもりは『女性』というよりも『母性』を感じさせた。
だから、ロイは再び苦笑うことしか出来なかった。
「まるで子供のようだな、俺は」
「ロイみたいな子供ならほしいけど?」
そう言われたロイは、のほほに触れながら互いの顔を近づけた。
それから、ロイは艶やかな微笑みを添えるとに問い返した。
「協力ならいつでもするぞ?」
「ロイは今の関係を壊したい?」
「……いや」
「おやすみ、ロイ……」
そう言ってからはロイの額にキスをした。
そして、ロイはそれを受けるとすぐに眠りについた。
すると、タイミングを計ったかのようにヒューズが現れた。
「なんで、ロイに自分の母親を敵と一緒に燃やしたことや、人間を完全に消す為に使ったことはバラさなかったんだ?」
「……『焔』はロイのお株だし、もう、私は『炎』をロイ以外の為に使う気はないから」
「……そうだな、お前はロイの火種でいろ」
「いわれなくてもそうする」
と、はあっさりと答えた。
その答えに含まれるものを知っているヒューズはいつものような軽口を叩いた。
「そして、お前達の『愛の練成』は俺にむけるな。グレイシアに逢いたくても逢えない俺に惚気るなら覚悟しろよ?」
「有り難う、マース」
「おいおい、相変わらず生真面目だなぁ、お前さんは」
そう言いながら、ヒューズは苦笑いを返した。
あまりにもらしいの言葉に対して。
だから、は表情を曇らせた。
「……マースと私は違うから」
「そうだな。お前がいるから俺は安心してロイの今後を考えられる」
「そして、私はロイの『今』を守る」
「それまでは死ぬなよ、」
「それはこっちのセリフ」
そう言われたヒューズはニヤリという笑みを返した。
「もう休んだ方がいいぜ、明日も早くから作戦があるんだろう?」
「この殲滅戦において、私達は軍の狗という名の実験動物、だから……」
そう言いながら、はロイをじっと見つめていた。
だから、ヒューズはらしくないほど真剣に強く言い切った。
「それでもお前は『氷炎』の二つ名を大総統から与えられたんだ」
と言われたは、銘を授けられた時の事を思い出した。
はこの銘を大総統から直接、授けられたのだ。
が試験ではなく、大総統と等価交換で得たものだったから。
代価は大総統の真意。
そして、得たモノはマスタング少佐の側近として守り続ける権利と義務。
己の『炎』を『燃やす』以外で示すことが出来た、最後となるであろう時のことを思い出したは瞳を閉じた。
そして、そんなのことを、ヒューズはただ見守っていた。
そのおもいへ応えるように、は開いた瞳をヒューズに向けてから言い切った。
「わかってる。私の全てをかけて守り抜く為に『氷炎』の銘を手に入れたのだから」
「本当にお前はいい女だな。グレイシアの次にだが」
「……有り難う」
私は君に『勝利』することは出来るだろう
しかし、そんな『勝利』では『氷炎』が守るモノを冒すことは出来ない
だが、君は私が授ける銘を背負い続けることが出来るかね?
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『焔の翼』の天地様から頂いて参りました。
わ、わわ私なんかが貰っちゃって良かったのでしょうか(ガタブル…
天地様の書かれる大佐はとても格好いいです。
なんと言いますか、文章がまとまってて綺麗なんですよね。
尊敬しちゃいます(迷惑
素敵な小説を、どうもありがとうございました。