来たる2月14日は聖バレンタインデー。
その特別な日を目前に控えたクラスのムードは
なんだかそわそわしていた。
ただ一人、七原秋也を除いては。












*愛しい人から愛しい人へ*









「なーなはーらくんっ」
軽い感じで声をかけてきたのは、
我が3―Bの女子委員長、内海幸枝だった。
後ろには、勿論いつものメンバー。
野田聡美や中川典子などだ。
女子の「グループ」というヤツは、男にはよくわからない。

「ねぇねぇ、もうすぐバレンタインじゃない?今年は一緒に作ってみない?」
「はい?」
突然の幸枝の問い掛けに、七原はつい間抜けな声を出してしまった。






そもそも、男の七原がチョコを作る、というのがまず変なのだが、
初めて聞いた"バレンタイン"というのは
すきな人からすきな人へチョコレートを渡すもの、
と聞いて(確か小3ぐらいのときに自分にチョコをくれた女の子に聞いた気がする。
初めてチョコを貰って「なんでチョコなんかくれんの?」と聞いたらすごく怒られた)
急いでコンビニまで行ってチョコを買ってノブに渡した。
そのときはまだ三村や杉村には出会っていなかったのだが、
次の年からノブや杉村や、勿論三村の分もチョコを買って渡していたのであった。

それはもう、クラスで知らない者はいないほど知れ渡っており、もう当たり前のことになっていた。




「え〜?でも俺、料理とか全然できないし…」
「大丈夫よ!ねっ?」
幸枝の瞳は何故かとても必死な感じだった。
「ん〜…ぐっちゃぐちゃになったら、委員長頼むぜ?」
「じゃあオッケー!?」
「オッケーオッケー、委員長には逆らえねーな」
ちょっと困った感じで鼻の頭を掻く。
…あ、杉村のクセが移ったかも…。
「はい、じゃー決定〜」
幸枝は嬉しそうに両手を合わせた






幸枝と七原の一部始終を聞いていた三村は、
どうやらバレンタインのチョコの話しをしているらしい、
ということしか聞き取れなかった。


「おい七原、さっき委員長たちと何話してたんだよ?」
「え?…あ〜!あのこと?バ」
「七原くんっ!ストップ!」
そこから先は、やはり聞き取れなかった。
幸枝は三村に聞こえないようにこっそり耳打ちをしたから。


三村にその内容を知る術はなかったのだが、こんな内容だった。
「ちょっと七原くん!バレンタイン当日までこのことは絶っ対内緒!!」
「え…?なんで?」
「…も〜、七原くんてば…。だって三村くん、驚かせたいでしょう?」
「……うん。…そっか、確かに…。よし、このことはバレンタインまで秘密な。」
「うん、秘密ねっ」










「委員長〜…。これ……普通に無理だろ…」
「あら、大丈夫よ、これ、見掛けほど難しくないわよ?」
目の前の女の子向けの雑誌には、とてもおいしそうな、
しかしそれ以上にとても難しそうなチョコが書いてあった。
貰う分には構わないのだが、作る側に回れば話は別だ。
「さ、はじめよっか」
委員長は手慣れた手つきでチョコを刻みはじめた。
「七原くんもチョコ刻もうよ」
「はいはい」




──そういえば委員長たちのグループからは、
去年も手の凝ったチョコレートを貰った覚えがある。
全く。
女の子って毎年毎年飽きないのかなぁ?








ざくっ








「…?」

皆が一斉に見た先は、勿論七原。
考え事をしていたせいか、包丁で切ったらしいその指先からは血が出ていた。

「うっ…わぁぁっ!!」
「七原くん、落ち着いて。野球会の天才ショートともあろう者が情けないわよ」
ぴしっ、とそう言ったのは野田聡美。
「七原くんって意外とうっかり者なのねん」
と中川有香。
「大丈夫?七原くん!はい、ばんそこ持ってきたよ」
有香と同じ名字の彼女は中川典子だ。

「……ごめん」
これは七原秋也。











「…できたぁ…!」

途中何度か七原を中心にハプニングが怒ったものの、
皆の囲うテーブルの真ん中には、おいしそうなトリュフと小さなチョコレートケーキがたくさん皿につまれていた。

「え〜!?これすっごいおいしそうじゃない!?」
「わ〜、見た目もすごい綺麗だね〜!」
「こんなにうまくいったのって今までで初めてかも!!」
「はいはい、でもラッピングしないと。」
「さ、はじめよ!」
「はぁ〜い」



七原はその女子群の会話の早さに唖然としてしまった。
きっとそのときは間抜けな顔をしていたに違いない。

「あ、七原くん、ごめんごめん。一緒にほら、ラッピングしなきゃ」
七原が唖然としてるのが目に入ったらしく、気遣って幸枝はそう言った。
「…あ…、うん」





そういえば、誰にあげよう?
まずノブだろ?あと杉村。
あとは──






結局、七原の包んだ包みはみっつ。














さぁ。
準備はできた。
あとは勇気を出して、渡しに行こう。
大好きなあの人に。
愛しい、あの人に。
愛を込めて。











End…










みほさんの所から頂いてきました!
バレンタインですよvv
内海とか、あのグーループ好きなんで、
出て来ててウハウハです。はい。
どうも有難う御座いました!