-- 恋火 --
「よし、これなら何とか夜には間に合うな」
このペースでやれば、アレにはちょうど良く間に合うだろう。
ロイは小休憩と、書類から目を離し椅子にもたれ肩をならした。
「やけに頑張ってると思ったら、もしかして大佐。今夜、見に行くんですか?」
「まあな」
「相手は少佐ですか?」
「当たり前だろ」
「イイッすねぇ〜。俺も見に行こうかなぁ〜」
「馬鹿者、お前は仕事をしていろ」
「うわっ。何スかそれ。ひでぇー」
知らんな、とロイはそっぽを向いた。
部下が横で不満を言うのを無視して、今夜誘う相手のことを想う。
すぐに、喜ぶ顔が目に浮かんで口角が緩んだ。
「うっわぁ。大佐、何ニヤニヤしてんですか?キモイっすよ?」
「今夜、お前も派手に打ち上げてやろう。ハボック」
「遠慮しておきます」
「安心しろ。決定事項だ。覚悟しておけ」
「・・・す、すみませんでした!!」
ガチャ
「あれ〜どしたの?2人とも何か楽しそうね」
扉を開けたはギャーギャー言っているハボックと意地悪な笑みを浮かべてるロイを見てそういった。
そのことに、ハボックは即座に返す。
「全然楽しくありませんて!!」
「ははは。今夜はいいものが見られるぞ。楽しみにしていろ」
「今夜?・・・・ああ、花火大会のこと?」
「大佐ってば酷いんすよ?俺も一緒に打ち上げるーとか言うんだから!」
「また、ハボック少尉が余計なこと言ったんでしょ?」
「うっ・・・・」
「ほら。一言多いと命取りよ? ロイちゃんも部下イジメも程ほどにね?」
呆れ混じりに苦笑して、ハボックの肩をたたき、ロイを諌めた。
「暇つぶしにはちょうどいいだろ」
「こんな上司要りませんよ〜!」
「はいはい。そんなことより仕事仕事!」
「そうだな。今夜のためにも!」
「・・・・その、今夜の件だけど・・・」
休憩を止めて、残りの書類を片付けるためペンを持ってやる気の声をあげたロイに、は言いにくそうに言葉を濁す。
「ん?どうした?」
「中央からの呼び出しがあったの。『今すぐ来い』って」
「・・・・・・・・」
一瞬、真っ白になったロイは、次の瞬間には怒りに肩を振るわせた。
「列車の手配は出来てるわ。行きましょう・・・・・」
「っんのくそジジイ共!!」
ダンッ!っと机を叩いて立ち上がった。
立ち上がったところで、と目が合った。
「楽しみにしていたのに・・・な」
「私も・・・。 たぶん、くだらない”激励”なんでしょうね」
「ああ。確実にな」
お互いにため息と苦笑を零した。
「お供しますよ。マスタング大佐」
「ああ、すまないな。少佐」
今夜の予定を狂わせた能無しのお偉い方々を
「「一発殴ってやろう(ね)!」」
と、固く誓って2人は司令部を後にした。
ガタンゴトンカタンゴトッ――――
「あーあ。楽しみだったのに、花火・・・・」
これから行く中央でのことを思うとやるせない。
気の抜けた声で列車の窓の外を眺めながら言った。
「全くだ。普段何も言わないくせに、こういうときだけタイミング悪く出てくる」
「早く消えてくれないかしらね。そしたら上の席が空くのにね・・・」
「願ったり叶ったりだな」
落胆の色を隠せない二人はそのまま何も喋らず黙り込んでしまった。
イーストシティからセントラルまで道のりは長い。
「今すぐ来い」と言われてもすぐに行ける距離ではない。
分かっていて、夕刻の近い時間に呼び出すのだから、嫌がらせにも程がある。
今すぐ消し炭にしたい気分だ―――
しばらく、揺られていると眠気が襲ってきた。
相当疲れているらしい。 そう認識しただけで瞼が重くなった。
この列車の終着駅はセントラルだ。
ならば、多少眠ってもいいだろう。乗り過ごすことは無いのだから・・・・
「おやすみ」
眠りに落ちる前に心地よい彼女の声が聞こえた。
懐かしい記憶の夢を見た。
まだ、士官学校にも入る前の頃。
彼女、と学校の屋上で空を眺めた時のことだ。
彼女が 「星が見たい」 と言った。
あの時の記憶。
「天の川?」
「そ、天の川。夜空に架かる星の川」
「それがどうした?」
「・・・・・見たかったなぁって。7月7日」
「七夕か・・・」
「うん」
綺麗なんだろうなぁ――と青々と晴れ渡った空を仰いで彼女は呟く。
星は澄んだ空でしか綺麗には輝かないだろう。
最近目まぐるしく建っている工場のせいで濁ってしまった空では見ることは出来ない。
冬の夜空で綺麗に見えるくらいだ。
今の季節では無理だろう。
もそれは分かっているようで、諦めのため息を落とした。
それから他愛も無い話をして時間を過ごしたが、どの話もあまり覚えていない。
ただその時は、 『彼女に星を見せてあげたい』 『彼女を喜ばせたい』
とだけしか考えていなかった。
そして、考えた末に思いついたんだ。
これなら・・・と。
夕闇になり「もう、帰ろう」と歩き出した彼女の腕を掴んだ。
「」
「ん?」
「明日の夜、空いてるか?」
「空いてるけど?」
「何?」ときょとんとして聞き返す彼女にニヤリと笑っていった。
「明日、お前にいいものを見せてやる」
あとで聞いた話だが、その時の俺の顔は悪戯を思いついた子供の顔だったらしい。
何をされるのだろうと、怖かった。 とも言っていた。
どういう目で俺を見てるんだ!と怒ったのを覚えている。
翌日。
一応、デートと言ったので彼女は珍しくスカートを着てきた。
まさか・・・・と目を疑ってしまって暫く何も言わずに惚けていると、 叩かれた。
気を取り直して目的地へと歩く。
「どこへいくの?」という彼女の質問へは一切ノーコメントで。
何度かそれを繰り返していると、彼女は「言えない事でもするつもり?!」と変な目で俺を見るようになった。
そんなときは「いい加減にしろ」と叩いた。
あの頃はまだお互いの気持ちに気づくわけも無く、ただ親しい友人というだけだった。
今思えば、あの時のことはなんだか・・・・夫婦漫才のように思えるな。
「着いたぞ」
と、足を止めて彼女を見た。
またしても彼女はきょとんとしていた。
当然だ。
着いた場所は街を少し離れた少し広い人気の無い川原。
こんな何も無いところへ何しに来たのか不思議に思ったのだろう。
「ロ、ロイちゃん?ここで何するの?」
「風向き風力共によし。うむ、これならいいな」
「ねぇ・・・・!」
無視している俺に彼女は声を上げた。
「何をするかは見てれば分かる」
「だから何なのよ!」
「しっ」
「え」
彼女の声を制し、
「いくぞ」
ヒュンッ―――!!
と、何かを空高く投げた。
そして
パキンッ
と言う音がして 刹那―――
パアアアァァン―――――ッッ!!
「・・・・あ」
頭上で無数の光の粒が煌いた。
キラキラと舞い踊った光はまるで・・・・
「星みたい・・・」
頭上から降り注ぐ光の粒を彼女はうっとりと見つめ 綺麗・・・と呟いた。
「ロイちゃん・・・・」
ありがとう・・・・・
そう、小さく言って手を握ってきた彼女の顔は少し赤かったように思える。
暗闇でよく分からなかったが、絶対にそうだ。
でも、はっきり分からなくてよかった。
何故かって、・・・・俺も顔を赤くしていたと思うから。
二人の恋に火がついた瞬間だったのかもしれない。
そして、動き出した瞬間であったかもしれない。
「また、来年も見せてくれる?」
「・・・・暇だったらな」
「もう、何それ」
クスクスと彼女は笑った。
彼女はとても嬉しそうだった―――
「ん」
遠くから『セントラルーセントラルー』というアナウンスが耳に入った。
ああ、着いたのか。
瞼を開けて、驚いた。
向かいに座っていたはずの彼女がいない。
だがすぐに、右手の温かみと肩にかかる重みに気づいた。
そちらを見ると、気持ち良さそうに眠るの姿があった。
もしかしたら、この繋いだ手のおかげであんな夢を見たのかもしれない。
懐かしい思い出。
実はあれ以来、彼女のためだけの花火は見せていない。
士官学校に入ったし、卒業するとすぐに東方に派遣されて忙しくなり、見せてあげる暇が無かった。
その代わりに、街で行われる花火大会へは連れて行った。
だがそれも、連れて行けたのは去年だけだ。
思い出した彼女の喜ぶ顔。
あの顔をもう一度みたい。
「、起きろ。着いたぞ」
帰ったら、昔のように
「さっさと、上層部の奴等を殴って帰るぞ」
君にだけの特別な花火をあげよう
END
響様から頂きました!
30003を踏んだので、キリリクさせて頂いた物です。
とっても素敵な小説を有り難うございましたv