今までに本気でオンナを好きになるなんてこと無かったし、
そもそもヒトメボレなんてものも信じちゃいねーわけよ。
ある日森の中で彼女と出会った
「さんぞー腹減った」
「うっせぇチビザル、お前は一分でも黙ってられないのかっつーの」
「んだよ悟浄は腹へらねーのかよ!」
「お前と違ってなー!」
「うるせェ、今すぐお前らのその頭に穴開けて空腹なんぞ感じないようにしてやろうか、あァ?」
「まあまあ、この森を抜ければ街があるはずですから、何か食べましょう」
「やたー!」
いちいち腹減ったの報告なんざいらねーし。実を言えば俺だって腹は減ってるし。だいたいこの森何なんだよ、道がねえからジープも使えないだとふざけろ。ああ、イライラしやがる。
と、今まで一行の声意外になにも聞こえなかった森に、不釣り合いな高音が。
『きゃぁぁー!!』
お、これは女の声だ。間違いなく。
「え、何?何?」
「どうやらもう少し進んだ方から聞こえましたね」
思うより先に身体が動き出していた。
「わり、俺見てくるわ」
「おい、エロ河童!なに単独行動とってやがンだ!」
「女の人を放ってはいけないんでしょうね悟浄は。本能でしょう」
「…まー、悟浄らしいっちゃ、らしいけどなー」
後ろから、そんな声が聞こえた気がする。アイツら散々言いやがってあとでシメる。
とにかく女性が襲われてる(…まあここはオールマイティな意味で)としたら、黙って素通りなんて悟浄様の名が泣くってもんで。
八戒の言うとおり、それほど離れた場所でもなく、しばらく歩を進めると声の主と思われるオンナの姿が見えた。
すごく、綺麗だと思った。まだ少し幼さも見える顔立ちだが、何か惹かれるものがあった。
「やめて下さいっ、離してっ!!」
「こんなトコ一人で歩いてる方が悪いんじゃねーのぉ?」
「そーそー、ちょっと俺らの遊びに付き合ってくれれば良いんだからよ」
「誰も見てねぇって、なあ?」
女一人に3人がかりたぁ、まあ情けないもんだこと。
しかし何だアイツら、妖怪、じゃあなさそうだな…?明らかに雑魚なんすケド。いっちょやったりますかー。
「おい、待てよ。誰も見てねぇだ?お前らの目は節穴かっつーの。俺様さっきからここにいますが?」
「な、誰だお前!?」
「たっ…助けてッ!」
「え、だから、オ・レ・サ・マ。ゴーカンなんてイケナイコトしちゃう悪い奴らには俺がちょちょっとオシオキしてやるよ」
「ふざけたことぬかしやがって!殺すっ!」
そう言って3人ともが俺に向かってくるからサ。もう彼女は少し離れた木の陰に隠れたよ。というわけで遠慮はいらねえし。殺されるのはお前らデス。
「ぐはぁっ…!」
「がぁあっ!」
え、なにこいつら素手でイチコロ、ってか?俺様のエモノも出す必要ないようで。一瞬で二人、俺の足下でオネンネかよ。弱すぎていっそ笑みがこぼれるね。
「や、やめ、頼む見逃してくれ!」
あと一人はもう目も当てられないくらいに情けない野郎で。許し乞われたって…。
「やだネ」
聞くワケないだろ。顔面から打ち込むと、鼻の骨の折れる感触が拳越しに伝わってきた。多分死んじゃいねーけど、動けそうにもないから良いだろう。レディーの前でむごたらしい真似するのもアレだし、それに、お前らが人間だったことに感謝しろ。妖怪だったりしたら容赦しねーよ?
彼女はまだ隠れているだろうか。いや、もう逃げてしまっているか…。
振り返ると、意外にも平然と、彼女はそこに立っていた。
「何だ、まだ逃げてなかったのか。もう、終わったぜ」
「あ、ありがとうございました…。その、名前を…」
「俺の名前?ご…」
まだ言い終わらないうちに別の声によって台詞は途切れた。
「うおーい、ごじょー、用は済んだかー?」
「ったく一人で駆け出しやがって良い迷惑だクソが…」
「人助けは良いことですよ、三蔵。お疲れ様です悟浄」
折角の良い雰囲気という物をぶちこわしにするかのように、3人は現れた。
「悟浄さんと言うんですね。あの、悟浄さん、本当にありがとうございました」
「別に対したコトじゃないすから。まぁ、お礼なら、今日の夜とか空いてるぜ」
「え…。え?!」
「じょーだん」
「で、ですよね…」
「案外冗談じゃねぇんだから悟浄の言うことは、気をつけた方が良いぜ姉ちゃん」
「いらんこと言うんじゃねえっ、バカ」
俺は思いきり悟空の頭を押さえつけてやった。もういい、ちぢめ。お前はもうそのままチビでいろ。
「そんなことより、お怪我なんかはありませんか?」
「あ、はい、悟浄さんのおかげで、私は無事に…」
「それは良かったですね。ところで、貴女はどうして一人でこんなところに?」
“そんなことより”とは何だ八戒。まあ置いておいて、何故彼女が一人なのかは俺も気になった。
「私、もう少し行ったところの村に住んでるんですが、今日はその、薬草を採りに来たんです。この森の草は治療にすごく役立つんですよ」
言われてみれば、彼女の手には篭。その中に何やら緑の草が見える。
「へーぇそれで一人だったんだ。でもこれからは気をつけろよ?今日は俺様がいたから良かったようなもんだ」
「ふふっ、そうですね。あ、すみません、そういえば私、名前を…。あの、です」
「あ、かっわいいじゃん」
そこに、先程辛口数少なかった三蔵が口を挟んだ。
「村、と言ったな。俺たちも多分、そこに向かって歩いている。案内しろ」
「は、はい…!」
「三蔵!そんな風にぶっきらぼうに言ってー!恐がってるじゃんか!」
「きっと三蔵は村まで貴女を一人にしないように言ってるだけですよ、安心して下さい」
「そ。こういうねじ曲がった性格なんだ、この法師さま。勘弁して、な」
「煩いぞ悟浄」
小言を言ってくる三蔵は無視して、俺はちゃんの手を引いた。
「じゃ、行こうぜ」
これが出会いだった。
既に心に違和感を覚え始めていた。
* * *
あとがきんちょ。はねこさんへ。
実はこれまだ続くんです、中途で終わっていてごめんなさい。
後編もひっくるめプレゼントするんでお待ち下さい。
07/03/25