「じゃじゃーん!」





二人の間、その距離・・・





いくらか派手な効果音を発しつつ信史が手に取り見せたのは、買ったばかりの新品なのであろう、美しく光を跳ね返しているCDポータブルプレイヤーだ。
それなりに値をはるものだ、どうやって手に入れたのだろうか。

「それ、どしたの?買ったのか?」
「んー、まあな、結構頑張ってみましたよ俺」
「すごいじゃん」

信史はイヤホンを繋ぐと、秋也に着けてみろと手渡す。

「え、良いの?」
「聞いてろよー」
「何入れてあるの?」
「聞いてからのお楽しみ」

イヤホンを着けると、耳慣れたフレーズが流れてくる。何度も、何度も楽譜とにらめっこしている為、歌詞は完璧だ。

「え、これ、サマタイム・ブルーズ…!?」
「好きだろ?」
「好きだよ!え、どうしたんだよこれ、ほんと最高!」
「海外サイト回ってちょっとCDに落とさせて貰っただけ」
「だけ、って」

海外のサイトにはいるのさえ一苦労する次第だ、しかもコピーともなれば相当の技術がいるだろう。

「三村…すっげーな…」
「お前に聞かせてやりたかったんだ、たいしたことじゃないぜ」
「俺に?」
「七原いつもそれ練習してっだろ、知ってるぜ」

そう、秋也は毎日のように、音楽室でこの曲を練習していた。新谷和美に聞いて貰う為に。

「な、なんで知ってんだよ」
「憧れの先輩だろ?」
「だから、なんで知って」
「いつも見てっから。音楽室から練習してる音が聞こえてきたからさ、ちょっと見てたワケ。ま、初めの方は聞けたもんじゃなかったけどな」
「…うるせぇな」

サビが聞こえてくる。秋也の指が自然とコードを作っていた。ここは指の動きが難しい。確かに以前はなかなか動かなく苦戦した。
そんな頃から見ていたのか。

「上手くなったよな。七原」
「そうでもないよ、まだまださ。新谷先輩に聞いて貰うんだ、もっと上手くならなきゃ」
「ご立派ですねー、精進して下さい」
「なにそれ」
「別に」

それから秋也はしばらく歌詞を口ずさみながら曲に没頭する。それを信史は何も言わず見ていた。

「…お前、そうやってるとマジで可愛いよ」

「え、なに?なんか言った?」
集中している秋也には聞こえていなかったらしい。それもそのはず信史は聞かせるつもりもなく、独り言だった。

「…いーや、言ってないぜ」
「そっか」
「あ、七原、片方イヤホン貸してくれ」
「そうだね、ごめんさっきから俺ばっか聞いてて、三村のなのに…!」
「いいよ。全然」

ケーブルはあまり長さがない。自然と二人の距離が狭まる。
二人の間、その距離半歩。否応なしにも時々腕が触れる。

信史はそれなりに英語は出来る方であった。歌詞もそれなりに理解できたが、今耳に入った部分はどうも分からなかった。
ここは七原に聞いた方が早いだろうと信史は判断し、横に振り向く。
秋也と目が合った。

「あれ、なに、俺のこと見てた?」
「え、いや、別にっ、それより、なに?三村」
「今の部分、ちょっと聞き取れなかったから意味聞こうと思ったんだけど、いいや」
「なんでよ」
「今七原が何で俺のこと見てたのかなー、って、そっちの方が気になるから」

すると秋也の頬が少し赤らむ。

「何でもないよ…!!」
「何でもなくないだろ?」
「ん、いや…ただちょっと」
「どした?」
「ただ、三村の横顔ってすごく綺麗っつーか、男に綺麗っていうのも変だけど、なんか、あーもう何でもないんだって!!」
「ふーん見とれてたワケ」

秋也はそうだよ、と言いうつむいた。すぐまた顔を上げ、てか、と切り出した。

「ん?」
「さっき、やっぱ、三村なんか言っただろ、俺が聞こえなかった時」
「えー、言ってないって」
「いや、絶対言ったね、言ったね」
「なんて言ったと思う?」
「やっぱ言ったんじゃないか!分かんないから聞いてるんだろー!」

信史は自分の着けているイヤホンを外すと秋也の空いてる方の耳にそっと着け直し、曲の音量を上げた。

「え?音、みむ」

「七原は可愛いから好きだよ」

「え?え?なに?また聞こえなかった!」
秋也は片側イヤホンを外した。

「もう言わないよ」
「ずるいぞ!聞こえないようにして!なんて言ったんだよー!」
「ナイショー」



そのあとしばらく秋也の耳にはサマタイム・ブルーズがリピートして流れていた。



06/04/29


戯れ言

先日は三七素敵イラストをプレゼントして下さりありがとうございました。
「二人でイヤホン片方ずつ」というシチュエーションが気に入ったので、小説にしてお返ししてみました。
ただ、今はMDやMP3の時代ですが、彼らの時代はまだCDかななんて勝手な妄想にて、CDにしてみたり。
も、もしやカセットか…?
ジェネレーションギャップがぁぁぁ。
ということで、この辺で退散しますね…っ!