誰かさ





「おはよう、七原」
「おはよう、サン」

いつものように眠そうな顔をして、教室に入ってきたに、秋也はいつものように返事をした。
気付いて欲しくて、少し待ってみたけれど、一向に気付く気配はなし。少しイライラした。

今日は俺の誕生日だろう…?

いわゆる秋也のファンらしき女の子たちは、おめでとうと言ったり、プレゼントくれたり。

「七原くん誕生日おめでとう!」
「ありがとう」

「おめでと!これ、プレゼント…良かったら」
「ありがとう」

けど、俺が欲しいのは“誰か”からのプレゼントじゃなくて、何より“君”の。


「今日も、眠そうだね」
「うん、眠い」
「昨日ちゃんと寝たの?」
「誰かさんの所為で寝不足だよ」

誰かさん?

ふと、秋也はの横に視線を移す。三村信史が、そこに、立っていた。
三村とサン、朝一緒に登校してるんだっけ…?それもまた、ふと、思った。

「七原おはよ」
「おはよう、三村」
「なんだその顔?俺、何もしてねえぞ?」
「別に」

ホームルームの始まりのチャイムが鳴る。
「あー、座ろ」
「お、トンボ来たぞー」
クラスメイト達が口々に言った。


 *


昼休み。
秋也は机の上に、眠いのだろう、突っ伏しているのもとへ行き、話しかけた。

「なあ、サン」
「…何?」

「つかぬ事お聞きしますが」
「何よ…かしこまっちゃって」


聞くべきだろうか?聞かない方良いだろうか?


「寝不足の原因の誰かさんって、三村?」


は眠そうな表情を少しこわばらせて、それから秋也の目をとらえた。


「だったら、どうすんの?」


ほら、聞かない方が良かっただろう?


「いや、別にどうもしないよ?」

いやいや、どうもするでしょう?なに嘘付いてるんですか七原さん?

「ただ、ちょっと、つらいなあ俺」
「なんで?」
「誕生日なのに」

は、数秒前までまどろんでいた目をぱちりと開き、椅子から急いで立ち上がる。
その所為で椅子は後ろへ倒れ、がたんと音がした。

「ちょっと待ってて」

そう言うとはロッカーへと駆け寄る。鞄の中から、青色の何かを取りだした。

「これ、プレゼント。ごめん朝渡すの忘れてた」


覚えてたんだ、誕生日だって事。それが、当日の朝忘れてようとも。
プレゼント、用意してくれたんだ。俺が望んでいたものを。君からの贈り物を。

秋也は沈んでいた気分は何処へやら、今やとても上機嫌だった。
嬉々としてからそれを受け取る。

「ありがとう、開けても良い?」
「どうぞ、ご勝手に。」

青い包装紙にくるまれた四角いそれ。同系色のリボンを解き、丁寧に開けていく。
秋也がプレゼントをあけている間に、は倒れた椅子を立て直し、座った。
中から出て来たのは何本かのカセットテープで、それぞれのシール面には秋也お気に入りのロックミュージシャンの名前が書いてあった。

「これ…」
「信史とね、取ったんだ。ロック。喜んで貰えると嬉しいんだけど」
「超嬉しい。やばい、嬉しいよ!ありがとう!」

ただ、少し、の行った言葉が、秋也には何処かひっかかった。



信史と。



「…三村と?」
「うん、まあちょっといろいろと、信史がね、ネットで…うん」

最後の方は言葉を濁した。ということはつまり、このような物は違法だからだろう。

「そうなんだ。ありがとう、わざわざ」
「気にしなさんな、ってね」

「おい、三村、ありがとうな」
秋也は窓際で豊と話していた信史にむかって礼を言った。

「おー。って、あ、そうだ」

信史は何か言いたげに、こちらに来た。

「何だい?」
「さっきの事なんだけどよ、誰かさんの」
「あぁ、それ。で?」
「いや、ほんと俺何も関係ないから」
「ふーん、そう」
「まあ、そゆこと」


 *


秋也と信史だけで話していたので一人退屈そうにしていたに、秋也が言った。
それは唐突に自分の口が紡いだ言葉だった。



サン、今日の放課後、俺と出掛けないかい?」



「え?何、突然」
「デートに、誘ってるんだけど、駄目かな?」
「ちょ、まじでどうしたの七原。別に暇だけどさ」
「じゃあ決まり。言っとくけど、三村は抜きだよ。俺と二人ね」

「信史? 別に行かなくても良いよね?」
「え、ああ」

たまには、サンを俺に貸してくれよ、三村。
お前はいつも一緒に居るんだろう。


「てか、あれ、七原さ、そんなにのこと好きか?」
「え、何言ってんだよ三村!」

「あたしを?そうなんだ、そいつぁ知らなかったよ七原」
サン…!!ち、違うんだ、その」
「違うの?」
「あー、もう…!」

秋也自身何と言って良いのか分からなくなってきた頃。

「七原お前さ、誰かさんが俺だと思って嫉妬してたんだろ」

信史の予想は見事的中で。秋也は、流石第三の男だ、と思った。

「本人に聞けばいいじゃんか。、誰かさんって誰だったんだよ?」
「んー、それね、七原のことだよ」

「お、俺?!」

予想外の答えに秋也は声を裏返す。

「あたし不器用だからさ、プレゼント包むのに凄く時間が掛かった訳」
「な、なんだ、そうだったのか…」
「結局お前の勘違いってコト」

「俺、ばっかみてぇ…」

「そんで、デートの件ですが?」
「あ、ごめん、何か俺の勝手で…。嫌なら良いよ」
「いや、そうじゃなくて、何処行くって話。行こうよ」
「え、う、うん…!やっぱ、俺サンのこと好きだよ!」

秋也は思い切りに抱きつく。
周りに秋也のファンが居ないことを願っただった。

 え、嘘、七原くんがさんに抱きついてる!えー、まじ最悪なんだけどー。むかつくー。

こんなこと、まっぴらごめんだ。

「七原、てめぇ、俺の幼馴染みになに抱きついてんだよっ」
「あっ、サンごめん」
「いや、別に構わないし」
「何どさくさに紛れて名前で呼んでんだよ」
「だから、別に構わないから良いって。ねえ七原」
サンもそう言ってるんだし。ねえ三村」
「お前らなぁ!」


朝からイライラしていたのが、本当に馬鹿みたいに思えてきた。
今はとにかく、早く放課後にならないか待つばかりだ。



05/11/13 16:01
1ヶ月も遅れてすまない七原。