周囲が急にざわめきだす。

「ねぇっ…!聞いた?!B組がさ―…」
「うっそ、それって―…」



「B組がプログラムに選ばれたんだって」




あたしの頭の中から音が消える。意識が遠退く。









出逢わなければ良かったね




















それはまだあたしたちが2年の頃。


、何やってんの?」
「漫画読んでる…」
「どんな漫画ですかー、拝見拝見」
「ちょっ、信史!」
「うわっ、お前これ少女漫画じゃんか。がこういうの読むとはね」
「おーまーえー!」

人を馬鹿にするのも体外にしろと言ったら、お前が恋愛に興味を持ってくれて嬉しいんだよベイベと返された。
もう何も言わんよ。信史の前ではどんな言葉を使おうと軽々返してくる。


「『私たち、出逢わなければ良かったね』」


ぼそりと、信史が呟いた。確かその台詞はその漫画にあったはず。

「どした、その台詞のどこにトキメキを感じてるワケ?」
「ときめかねーよ」


自分の所為で相手に怪我を負わせてしまったヒロイン。
泣き崩れ、相手と目を合わすことも出来ない。
出逢わなければ良かったと、口にする。


「ただ。お決まりじゃねーの、こういった類の。飽きない?」
「まあ、確かにね。漫画だし」


その言葉を発したヒロインは、どういう心境なのだろうか。どうして、みんなその台詞に行き着くのだろうか。


「俺は思うんだけど」
「何を。下らないことだったらシメるよ」
「こわいこわい。思うってのは、あ、おい、キモイとか言うなよ」
「言わないって。勿体ぶらすな」

「お前には、何があっても、この台詞言って欲しくない」

それは、意味がよく分からない。別にあたしが国語の成績が極端に悪いとかじゃなくて。

「分からないんだけど」
「だから、もし、こんな風なシチュエーションになったとしても、出逢わなければなんて、言うなよ」

「だって…ならないよ。あたしは信史怪我させないし」

そう言ったら、何故か苦笑いされた。そんなに見当違いなことでも言ったかな。

「そうじゃないんだけど…」

信史はいつもあたしよりも一歩も二歩も先のことを考えているようで、あたしにはよく分からない。もっとかみ砕いて説明してくれたらいいのに。

「怪我とかじゃなくても、お前は、俺と出逢わなければ良かったと思うようなことが、あるかもしれないだろ」
「ないよ」
「あるかも」
「ないって」
「そうかよ」
「そうだよ」

何を、そんなに恐れているのだろう。

「俺さー、こんなコト言うの何様、みたいな感じするけど、お前に忘れられるのって怖いんだよ」
「は、忘れ…ってあたし馬鹿にするのもいい加減に」
「違う。さっきの話。出逢わなければって、2人の思い出を、ないことにすればって、ことだろ?」
「う、うん。そうじゃないの?」

ふ、ふたり…。2人の思い出って。
少し意識する。幼馴染みのこの男のことを。

「俺と、それに豊。3人でずっといたじゃんか。もしお前がそういう思い出一切消したいって言ったら悲しいだろ」

いや、あたしらの場合、豊もいたんだ。何を勘違いしているんだかワタクシ…。
そう言うことか。やっと、言ってる意味が理解出来た気がする。少し。

「と言うことだから。ってまあそんなシチュエーション、お前の言うとおり絶対ないと思うけどな」




「きっと信史のこと忘れようなんて、思えないはずだよ」



































「ちょっと…!!大丈夫?!」

呼ばれてる。あれ、どうしたんだっけ。大丈夫って何…?

「顔色悪いよ?平気?今、急にがふらっとして…」
「・・・あ」

一瞬声が出ない。ああ、B組が、そうだそれを聞いて。

「う、ん…」
、三村のこと心配なんでしょ…?」

「ったりまえだよ、それに豊だって。ねえ、なんで、なんであたしたちの学校なの?ねえ、なんでB組なんだよ…!!」

意識がはっきりしてきて、何か、堰を切ったように感情があふれ出す。

「有り得ない有り得ない有り得ない!嘘だプログラムなんて!嫌だよ!何で!修学旅行のはずなのに…っ!」
「落ち着いて…!」


プログラムに選ばれたんだよ、幼馴染みたちが。生きて帰ってこられるわけないよ。もう会えないんだって。
落ち着いてなんていられない。



そうだ、信史はこういう事態のことを言っていたんだあの時。
俺のことを忘れないで欲しい。って。

ごめん無理だよ。

だってつらいんだ。
信史がいなくなるなんてこと、思い続けるなんてつらいんだよ。

思い出なんかいらない。
あの日あの時話した会話だって忘れ去ってしまえ。

つらい思いをしたくないんだ。
信史の存在がこんなにもあたしの中で大きい。



「はは、あははは…」



分かった分かったよ。
ねえ、信史、あの台詞はね、その人のこと、想いすぎてるから、きっと出てくるものなんだよ。












あたしたち、出逢わなければ良かったんだよ。














ごめん。



Fin...





06/06/02