もし世界が明日で終わるならどうする?
なんて、下らないことを君が聞くから。
世界が明日で終わるなら
「世界は終わらないから安心すればいい」
「いや、そうじゃなくて、たとえばの話だよ」
数分前、昼休みの屋上。
今日の空は久しぶりに快晴で、が屋上に来ると、そこに桐山が居た。
桐山はフェンスの近くに腰掛けており、何処か遠くを見ているようだ。
が来たことに気付かないようで、オールバックのほつれを直していた。
そっとが後ろから近づく。
「桐山!」
と、大声で言ってみたものの、当の本人は別段驚いた様子もなく、ゆっくりとマイペースにの方へ顔を向けた。
「なんだ?」
「い、いや、なんだって言われてもね。驚かそうと思ったんだけどな…」
は桐山の近くに腰を下ろす。
「が来たことは気配を感じて分かっていた。だから驚かなかったんだが」
「んー。桐山はさ、もし世界が明日で終わるならどうする?」
と、唐突にが話し出した。
そして今に至る。
「世界は終わらないから安心すればいい」
「いや、そうじゃなくて、たとえばの話だよ」
「たとえば…か」
「うん。たとえば、明日が最後の一日だったら」
「普段と変わらないんじゃないか?」
「え?」
「世界が終わると言ったって別に何か変わる訳じゃないだろうと思ったんだ。普通に朝起きて、充達と町中を歩いて、気が向いたら学校に来る。それだけじゃないか?」
「ふーん。そっかー」
相づちを打ちながら空を見上げ伸びをする。
「はどうなんだ?」
「え?あたし?あたしはどうだろう…。桐山と一緒かも。ふっつーに一日過ごしてるかもね」
あたしが質問したのに普通って答えちゃ駄目かー、と笑っている。
そしてそれを横から見つめる桐山は無表情。
「あ、そうだ!」
良い考えがある、とでも言うように顔を綻ばせる。
「今度はなんだ?」
「どっか一緒に行こうよ!ゲーセンとかさ!」
「別に俺は構わないが何故?」
「えーだって、世界が終わるって事はその日はお金使いまくれんじゃん!ゲームとかいっぱい出来るっしょ」
「そうか?俺はいつでも使いたいだけ使うのだが。まあ、普段あまりゲームセンターへ行くことも少ないしな」
「良いねぇお坊ちゃんは金持ちで」
「奢って欲しいのか?」
そんなんじゃねーよ、とが拗ねる。
「じゃあさじゃあさ、充とかも誘って、みんなでプリクラやろう!地球の最後記念に!」
「記念じゃないだろう」
「ん、まあね」
「まあ確かに、遊びに行くのは良いかも知れないな」
「でしょー!」
しばらく桐山は考え、言った。
「でも、俺としては、充達は誘わなくても良いと思う」
「えー何でよー?みんなで行こうよ」
「俺はただ、と二人で居たいと思ったんだ」
「…桐山…?何言って」
「いけないか?俺と二人きりというのは嫌なのか?」
そこでは首を大きく横に振る。
「イヤな訳無いじゃん!」
「そうか、良かった」
「うん。じゃあ、地球最後の日は二人でいようね!」
「あぁ。だが」
「何?」
「地球は終わらないぞ?」
「…だからたとえばって言っただろ!」
もし世界が明日で終わるならどうする?
なんて、下らないことを君が聞くから。
「一緒にいたい」
と、俺は答えた。
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END...............
05/4/16