“俺、金井泉が好きなんだ。”
この言葉、どうして彼女に言えなかったんだろう?
シンジに言うことは出来たのに。
どうして言わなかったんだろう?
もう、伝えられないじゃないか。
ラブレターを君に
豊は鞄の中に必要な物を詰めていた。
明日から修学旅行に行くんだ、俺たちは。
一通りの物を詰め終わったあとで、例の物を手に取った。
手紙、ラブレター、だ。
彼女(=代名詞だ)、金井泉への。
豊がそれを思い立ったのは数日前。
三村信史の言った言葉が、ことの始まりだった。
「豊は、金井のことが好きなんだよな」
「そ、そうだよ」
このときは、俺、コレを初めて打ち明けたとき以上に恥ずかしかったな。
しかし、誇らしくも思えた。
本当に、金井泉が好きだったから。
「コクハク、しねぇの?」
「出来たらしたいよ…!でも、俺…」
シンジみたく頭良くないし、運動得意でもないし…。
「…恥ずかしいよ」
「じゃあ、さ。ラブレターなんて、どうだ?」
「ラ、ラブレターだって?」
「今度修学旅行だし、渡せば?まあ、その場でコクっても良いけどさ」
確か、そんな会話だった。
そのときにコレを書こうと決めたんだ。
書き方なんて、よく分からないよ。
しかし、他の人に手伝ってなど貰える訳がない。
自分で、書くしか、ないよな。
金井泉さま
唐突でごめんなさい。
ぼくは、君のことが、ずっと前から、好きでした。
手紙じゃないと伝えられないようなぼくですが、
もし良かったら、お返事下さい。
瀬戸豊
端から見れば、なんだこれ、という感じだったが、豊には精一杯だった。
それを手に取り、鞄の中に折れないようにそっと入れた。
明日、渡そう。
今日は、もう寝よう。
コレが夢の続きなら良かった。
いや、夢、なのか?
だとしたらなんて面白いんだろうか?
コメディアンにだってなれるんじゃないか。
豊は、確かにバスに乗ったはずだった。
が、どうしてか見知らぬ教室の中で目が覚めた。
プログラム、だって?
俺たちは修学旅行に来たんじゃなかったのか?
気が付いたら教室を出ていて、一目散に走り出していた。
途中豊は何度か躓きつつも、クラスメイトに見つからぬよう走っていた。
考えてみれば、シンジを、待っていれば良かった。
6時の放送で、彼女の名前が呼ばれた。
信じられない…。
どうして、彼女が?
だって、だって、早すぎるじゃないか。
ひどすぎるじゃないか。
誰だよ、殺したのは…!
そのあと、しばらくして、豊は、信史と会うことが出来た。
本当にシンジは、頭が良かったのだ。
脱出を、考えていた。
俺は、復讐なんて考えていたのに。
シンジは、その復讐を手伝ってくれると、言ってくれた。
そして、「金井泉のどこが良かった?」と聞いた。
考えてみた。
今、もういない金井泉のことを。
口からぽつりぽつりと、言葉が出て来た。
「眠そうにして、席に座って頬づえついてるとき、きれいだったよ」
そんな彼女を、じっと見ていて先生に怒られたことがあった。
「教室のベランダの花に水やってて、うれしそうに葉っぱにさわってるときも、きれいだったよ」
その葉っぱが羨ましく思えた。
「運動会で、リレーでバトン落として、後で泣いてたとき、きれいだったよ」
声をかけようと思ったけど、俺には出来なかった。
今思えば、あのとき喋っていれば良かった。
「休み時間に中川有香の話とか聞いてさ、おなか抱えて笑ってるときすごくきれいだったよ」
そんな彼女を見ていたら、目があった。うれしかった。
言い終わると信史の方を向いた。
「おまえ、俺、将来コメディアンかなとか言ってたけど、詩人になれるぜ」
詩人…か。そうかな。
ただ、思っていたことを言っただけだけど。
コレをさっきの手紙に書けば良かったな。
そしたら、もっとましな手紙になったかも知れない。
もう、渡すことが出来ないけど。
突然、だった。
仲間にしてくれと言った飯島敬太を、信史が撃った。
ちょっとばかし、俺は、シンジを疑ってしまった。
俺が、いけなかったんだ。
ごめん、ごめんよシンジ。
しかし信史は、謝っても許してくれないようなことをした豊を、許してくれた。
次の瞬間、豊の体中に激痛が走る。
撃たれた、のか、俺?
信史は走っていった。
彼もまた、血が、出ている。
どうしてシンジ、走れるんだよ…!
なんて俺は、情けないんだよ。
痛む体を制し、頭を持ち上げる。
そこには、何か(一見只の四角い箱のような、しかしそれはマシンガン)を持った、
桐山和雄が、立っていた。
もし桐山が、金井を殺したんだとしたら…。
復讐出来なかったじゃないか、俺、馬鹿。
だんだんと豊の意識が遠退いていく。
あぁ、俺死ぬんだな。
せっかくもう少しでこのゲームから逃げられるとこだったのに。
いや、何言ってるんだ。
金井が、殺されたと言うのに、俺一人うまうま逃げるつもりだったのか。
どこかに、置いてきてしまった鞄の中、丁寧に入れてきた手紙のことを思い出した。
結局渡せなかったな。
何から何まで、ホント俺ってマヌケだ。
でも、もう、俺…
追伸
そして、今でも君が好きです。
もし、天国で逢えたら、幸せです。
その時まで一旦さようなら。
end
あとがき
三村←知里に引き続き、悲恋小説。
コレ一瞬、信史×豊でも行けそうな感じ…orz
大丈夫です、気持ちは豊×泉なんで。
本当に、彼女があんなに早くに殺されてしまったなんて。
可哀想すぎますよね。
天国で逢えることを願っています。
05/05/22 15:42 リョウコ