ドッジボールを、やることになった。
突然のことに多少驚いていたB組も、しばらくするとだいぶ落ち着いた。
「はい、じゃあ、体育館へ移動して。チームはそっちで言うからな」
担任がそう言うと、皆のろのろと席を立ち教室を出て行く。
「移動は早く!」
その言葉で半分ほどが出て行った。
「信史、ドッジボールだってさ」
「何、なんで俺にそれ言うの?ちゃんと話聞いてたから俺」
だるそうに席から立ち上がったは、
同様にだるそうな顔をしている三村信史に言った。
二人ともまだ教室内にいる。
「うん、何となく。 つーかあたしドッジなんて小学校以来なんですけど」
「ふーん。まあせいぜい頑張れば?」
ふと、は教室のある一角に目を向ける。
桐山ファミリー。
いわゆる不良というやつで、この辺り一帯では結構名の知れている集団だ。
彼らは、果たしてこのドッジボールなんて言う遊びに参加してくるのだろうか。
「おい、。行くぞ」
「…え、あぁ、うん」
二人は教室を後にした。
ドッジ・ロワイアル 1
「なあ、ボス。こんなのに俺らも行くのかよ?」
教室に他のクラスメイト達がいなくなったところで、桐山ファミリーの自称有能参謀の沼井充が言った。
「馬鹿、充、ボスがこんな遊びなんかに行くかよ」
と、笹川竜平。
「そうそう、てか、もう帰んねぇ?」
こちらは黒長博。
「どうしようか今考えているんだ」
良く通る声で、そう言ったのは、桐山和雄である。
桐山ファミリーのボス。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。
欠けたるものなど何もないのではというほどの男。
「アタシ、行っても良いわよ。三村くんがいるしねっ」
そしてもう一人、その顔、声に合わない話し方。
しかし彼、月岡彰は正真正銘の男。つまり、B組唯一のオカマである。
「「「お前のことは良いんだよっ」」」
「えぇーだってぇ、三村くんが」
「…俺も、行ってみようかと思うんだが」
充達と彰の言い争いの間に、桐山の声が通る。
「え?ボス?」
「ただなんとなく、やっても良いんじゃないかと思ったんだ」
「だってボス、そんな、良いよ行かなくて」
充は桐山を行かせまいと必死である。
なんせ不良グループのボスである桐山が、クラスメイト同士のドッジボールに参加など、
充としてはどうしても許せないのだ。
「じゃあ…、そうだ」
桐山はそう言うと、ポケットに手を入れた。
そして彼がおもむろに取り出したるは、一枚のコインだった。
「それで何するの桐山くん?」
「ボスって呼べよヅキ」
「今から俺がこれを投げる」
「あ」
充には彼が何をしようとしているのかが分かった。
「表が出たら、俺たちは帰ろう」
――でも、まさか、ボスに限って…。
「だけど、裏が出たら、ゲームに参加しよう」
きんっ…。
桐山がコインをはじく。
コインはくるくると回りながら彼の手の中へ戻った。
桐山は裏表を確認する。
「充」
――まさか、そんな、あぁ、そんなことあるはずが…。
「コインは、裏だった」
「そんな、ボス…」
「行くぞ」
「あー何かたりぃけど、まあ、行ってみっか」
「んー、そうだな、楽しかったりな」
「三村くん今行くわー!」
桐山達は教室を出て行く。
納得がいかないらしく充は教室から出ようとしない。
「充、来ないのか?」
充の耳に、廊下から桐山の声が聞こえる。
「え、俺…。行く…」
しぶしぶ行くと言ったものの、どうにも気が進まない充である。
充は4人の後を、重い足取りで追っていった。
05/05/29 22:48