コートの中央辺りには既に内海幸枝が立っていた。しかし桐山は特に急いだりはせず、マイペースにそこまで歩いていった。
「き、桐山くんなんだ、Aの代表」
「何か問題でもあるのかい?」
「う…ううん、全然無いわっ」
彼女は桐山相手にジャンケンを挑まなければならないのかと、相当びくついていた。
「幸枝っ、ガンバ!」
「聡美…だったら変わりなさいよ〜!」
「いやだよ〜ん」
「すまないが、さっさと始めてくれないか?」
「は、はいっ!」
最初はグー、ジャンケンぽいっ。
と言う訳で、このおきまりの台詞で両者手を差し出した。
ドッジ・ロワイアル 3
「あ、負けちゃった…」
幸枝はグーを出していて、対する桐山はパーだった。
それでも、悔しいと言うよりはほっとしている幸枝がいた。
桐山くんに勝ってたらあたし、どうなっちゃったのかしら…。だってあの桐山くんだもん、怖…。
「じゃあ、ボールはAチームだな。ほらっ桐山」
林田はそう言って桐山にボールを投げ渡した。
彼はそれを両手でぽすっ・と受け取り、「このゲームはいつ始まるんだ?」と聞いた。
「先生が笛を吹いたらすぐだよ」
「はーい。センセセンセセンセー」
突拍子もなくそう脳天気な声が聞こえた。
「なんだ三村?」
「質問してもいいっスかぁ」
「あぁ良いよ」
「んじゃあ遠慮無く。なんか特別にルールとかあるんすかぁ?」
「うん、そうだな。ルールは“何でもあり”かな」
「先生、じゃああたしからも質問、何でもアリってたとえば?」
が信史を押しのけて出て来た。
「顔面に当たろうがアウト。転んだ人が当てられてもアウト。とにかく当たればアウトって事だ」
「ふーん」
「へぇ」
「あぁ、でもラインとか内野外野のルールは普段通りだからな。みんなそこは守れよー!」
各々が自分のコートに入る。
そして外野を一人ずつ決定し準備完了だった。
Aは国信慶時が、Bは赤松義生が、それぞれ外野に着いた。
「ちなみに最初の外野だけは中入れるからな。じゃあ始めるぞ」
ピィィィ―!
試合開始のホイッスルが体育館にこだました。
始まりはしたものの、まだ友達同士で喋っているものが目立つ。
そんな中ボールを手にしていた桐山は、内海と話していた藤吉文世目掛けてそれを投げた。
それも、とても強く速く、ひょっとしたら野球部の放つボールに負けないくらいに。
彼の思った方向にきちんとボールは進み、藤吉の額にそれは直撃した。
「痛っ!!」
「きゃぁ!文世、大丈夫?!」
「大丈夫じゃないよもうっ。いったー…」
横にいた内海は心配そうに声をかける。当の本人は泣き出しそうだ。
「き、桐山…。ちょっとあれはひどいんじゃないの?」
「ゲームは始まっているはずだ。それに、どこに当たっても構わないのだろう、?」
「そ、それはそうだけどさ」
「はい、じゃあ藤吉アウトな」
「先生!こんなコトして良いんですか?!」
「さっきも言ったろう、内海。何しても良いんだって。それに話をしてたお前らが悪いんだぞ?」
さっきまでのほんわかした雰囲気はどこへやら、全体に緊張が走った。
多数の生徒が、このドッジボール、やる気になったようだった。
アウトになった藤吉の変わりに、外野の赤松が内野入りした。
「お、俺、ずっと外野のままで良いのに…」
コートに転がっていたボールは七原の手に。
「赤松、投げる?」
「な、七原?!良いよ俺全然強く投げられねーし!」
「いーからいーから。やってみろよ」
そしてボールは赤松へと渡った。
++ Bチーム 藤吉文世 アウト 【残り41人】 ++
05/8/16 21:58