蝉と君とあたし

















「あっぢぃぃ…」
「貴様それ以上言ったらアレだ、天国連れてってやる。暑いって言った奴が暑いんだよ」

外ではミーンミーンと蝉が鳴く。
夏の風物詩とでも言えば聞こえは良いが、コレが余計に暑さを促す。
ああ鬱陶しい。
隣では暑い暑いと幼馴染みが喚く。
言えば涼しくなるのかと問えばそうでは無し。コレもまた暑さが増すような気がする。
ああ、暑苦しい。



『扇風機壊れてるよ。それでもあたしの方来るの?』
『いーよ別に、それでも』
『ホント暑いのに?』
『だってお前、俺の部屋に来るってと、必ずなんか忘れてくるだろ。宿題のプリントとかな』



「だからってこの暑さはヤバイだろー。頭おかしくなるぜ」
「だからって、言ったじゃん」
「クーラーもねぇのかよって話!」
「な!おまっ、僕んちが貧乏なの君だって知ってるだろ?!」
「誰だよ」



窓は全開だ。それでも入ってくる風はなま暖かい。
地球温暖化について。
今、日本を初めとする世界各国の気候が変わりつつあります。その理由は、二酸化炭素による地球温暖化の――
こんなのは作文の題材にどうだろうか。もし他のネタが浮かばなければこれにしよう。

さっきアイスを食べたが、何しろ溶けるのが早く急いで食べたら頭が痛くなった。
今ではその冷たさも記憶のかなただ。食べたのかどうかも怪しくなってくる。


「ちっ、しょうがねえ、さっさと勉強終わらせて、どっか涼しい所行こうぜ」
「信史の部屋は駄目な訳?」
「え、あ、いや…まあ、散らかってっから」
「あ、そ」

気になって考えてみたが、処理したモノがベットの上にそのままとかかなーと思ったら、理由を追及する気持ちも失せた。でもそれはないか。
机に向かって、頭を捻らせるが、どうも効率が良くない。いつも以上に、回転数が足りないのかも知れない。暑さに脳がオーバーヒートする。
下敷きを使って風を送っても、熱は引きそうにもない。


「あー、ちくしょ、もう耐えられねー」


信史はそのままカッターシャツのボタンを一つ二つと外し始める。
ガラにもなく何故かあたしはふいと目を背けた。


「何ですか、見せたがりデスカ」
「ちがうよ。何だよは昔から俺の裸なんて見慣れてんだろ」


こんな台詞、三村信史ファンに聞かれたらあたしきっと半殺し。
ほんのちょっと、背筋に暑さとは違った汗が流れる。


「や、だからってさ、なんつーか」
「・・・思春期か。うんうんお前も大人になったな」
「ばっ、ちが!!べ、別に、そうだよ見慣れてるよ!だから平気だし!」
「じゃ、良いよな。遠慮無く」


そのまま信史はシャツを脱ぎ捨てる。ここでまた目を背けたら、馬鹿にされるのは容易に想像が付く。それも癪だから、あえてごく自然に、そうナチュラルに、机のプリントへと視線を落とした。


「うん、やっぱりいくらか涼しい」
「よかったね…
クソっ
「あれ、今ちっさくクソって言った?言ったな?」
「信史は涼しくても、あたしはちっとも涼しくないから」


それになんだか、さっきよりも。気温が上がったのか?
一瞬自分も涼しくなれないかと考え、シャツをパタパタしようかと思った。


「お前まで脱ぐなよな、流石に」
「誰が脱ぐか馬鹿か」


顔を上げたらまた視界に入るじゃないか。


蝉の声がまた気になり始めた。




そうだ、暑いのは、絶対夏の気温の所為で、それ以外の理由なんてあってたまるか。


fin...



06/07/21

馬鹿って言った奴が馬鹿なんだ。ですよ。
信史の部屋はエアコン完備です。