そりゃ驚いたよ。ボスが驚いてたんだから。
思えば、俺はボスのことボスとしてとしか、考えたことなかったけど。
その目には何が
「邪魔」
は特に何の意識もせず、目の前の少年に声をかけた。正確に言えば、廊下を堂々と塞いでいる少年達に。
彼らがそこにいれば、自分の通行に支障が出るから。それだけ。
ガラの悪そうな奴らだねぇ。思った。
「おいお前誰に向かって言ってんだよ?あぁ!?」
目の前のオールバックの少年とは対照的に、短い髪の、気も短そうな少年が声を荒げる。
「誰に向かって、って・・・誰?」
改めて少年達の顔を見てみるが、の頭には名前も浮かんでこない。それもそのはずだ、彼らが学校に顔を出すことが極端に少ないからだ。
元々人の名前と顔を覚えるのが苦手なに彼らを覚えられるはずがない。
「てか、誰だって良いよ。とりあえずどこ退いてよ。通れないじゃん」
またも先程の少年が怒鳴る。
「退けよじゃねぇよ、ボスに向かって調子乗ってんじゃねぇぞ…!」
「ボス…?って名前?外人ですか?」
「名前じゃねぇよ馬鹿か?!」
ボスというのはどうやらオールバックの少年のことらしい。
「ボス…さん?ホントの名前はなんて言うの?」
「ってめ…いい加減に」
「良いんだ充」
不本意にも、怒鳴り散らしている方の名前を先に知ることになった。
その声はとても静かで、不思議な感じのする声だった。
何でこの人は、こんなグループの中に居るんだろう。
「桐山和雄、だ」
「そう、覚えられないかも知れないけど。ま、いいや。ねえ退いてよ」
本来の目的を忘れるところだった。彼らと楽しくお喋りがしたい訳ではない。この廊下を通りたいのだ。
「何故だ?」
「なんでって通りたいから、あんた達が、邪魔だから」
「横を通ればいいだろう。何故俺たちを退かせたい」
「あたしがわざわざ、よけなきゃいけないワケ?」
充ほどではないにしろ、沸点の低いはけんか腰だった。
「あ、ちょっと!なにやってんの?!」
「幸枝…?おはよう」
「おはようじゃないわよ!桐山くん達と何やってるの…?」
内海幸枝、クラスメイトだ。
幸枝は心なしか、ひそひそと話している。
「何って」
「関わるのやめなよ!危ないって」
「何で」
「知らないの?!桐山くんって、不良のリーダーなのよ…?」
完全に、聞こえないよう耳元で囁いていた。
不良。ああ、なるほど。それでこの取り巻き。
「三村くんとかなら、そりゃ蹴ってでも退かしたって良いけど…、でも桐山くんは…」
「そりゃ知らなかったよ、でも、関係ないよ、退いて欲しいの」
「お前ボスだと分かってもそんな態度してっとシメんぞ?!」
「関係ないって、言ってんだろ」
一変しての口調が低くなった。充も圧倒される。
「あたしはあんたを不良のリーダーだと思って見てるんじゃない。一人の、そこら辺にいるような、普通の人間として見てんだよ。分かったら退けよ」
「すまなかった…退こう」
「え?え?!ボス…!」
「そ。ありがと!」
また元の声のトーンに戻っていた。
そのまままっすぐ歩いていき教室の中へと消える。
「ったら、待ってよ…!」
幸枝もすぐそのあとを追っていった。
「どうしたんだよボス、あんな女」
「分からないが、何となく…いや、やはりよく分からない」
俺は、見たよ。あの女の台詞聞いて、ボスの目、少し見開いてた。
初めて見た。そんなボス。だっていつもボスは何事にも動じないじゃないか。
一人の人間…か。ボスにそんなこと言ったの、あいつが多分初めてだ。俺も含めて、ボスのことは、ファミリーのリーダーとしか見てなかったから。
これは、俺の考えで、間違ってると思うけど、ボスは
嬉しかったんじゃないか。
fin.
06/05/20
桐山和雄と初めてあった日。
笹川達の口調がいまいち分からず、台詞はないけど、そこに彼らは存在していますよ。