私、今日からセントラル司令部に勤務します。


第1話  初めまして。


「マスタング大佐。今日から此処に配属される人がもうすぐ来るようです。机の上の書類、早く片付けて下さい。」
朝からホークアイの声が執務室に響き渡る。
「ふあぁぁ〜。中尉、私だって疲れてるんだよ。」
「ご自分の責任です。ほら貴方達もさっさと仕事始めなさい。」
「へいへい。了解っス。」

これが、此処、東方司令部の日常風景である。一体どちらが司令官なのか、と。

「ところで諸君、今日来るというのは女性らしいな。」
書類にのろのろとサインをしていたロイは、唯一の希望にすがるかのように言った。
「そりゃマジっスか大佐!」
「ああ。」
「聞いたか?喜べみんな!可愛い娘だと良いなぁ。」
ハボックは煙草に火を付けながら喜びの声をあげる。

「だったらなおさら、早く仕事を終わらせた方が良いのでは?」
盛り上がっていた室内は一変して、皆黙々と仕事に取りかかった。

「僕、中尉みたいに怖い人じゃないと良いです…。」
とほほ、とフュリーは小声で言ったのだが、流石中尉と言うべきか、聞こえたようである。

「曹長。何かしら?」

絶対零度の微笑み付きで。

「ななな、な何でもああありません」
「そう、良かった。」


 * * *


こつ、こつ、こつ――



司令部の廊下には靴の音が響く。

「何か、ドキドキするよなぁ。上司とかのいじめに遭わないと良いなあ。そう言う話よく聞くから…。」

しばらく歩くと執務室に着いた。入り口からかなりの距離があった。
「あ、此処だ。ふぅ〜。落ち着け落ち着け。」

トントンッ

「本日からマスタング大佐の下で働くことになりました。准尉です。」
「あ、入って入って!」

『…なんかウキウキしたような声だったけど今の。大丈夫かしら。』

がちゃ、と扉を開くと書類の山が乗った机が所狭しと並んでいた。

「…失礼します。」

まず入ってすぐ中央の席に座っているロイと目があった。ここはロイ、即座に営業スマイルである。もっとも彼はそのような営業などしていないのだが。
の頬は少し赤くなった。それも当たり前の話、この笑みに彼の周りの女性はイチコロなのだから。ホークアイ中尉を除いて。

『結構可愛いじゃないか。これから楽しみだな。』
何が楽しみなのか。

そしては他の部下達を見まわした。すると彼女は驚いたように声を上げた。
「あっ、せ、先輩!?」

「へ?」
今の間抜けな声を出したのはロイだった。

「ハボック先輩にリザ先輩じゃないですか!」
じゃん。久しぶりだなオイ。」
「あら久しぶりね。まさか今日来る人がだったなんて。」

これにはロイやフュリー、ブレダ、ファルマン達は話が飲み込めない。口をぽかんと開けている。

「あの准尉?少尉達とどういうご関係な」
「どういう事だ!君は何故ハボックなんぞのことを“先輩”と呼ぶんだ!?」
ファルマンが言い終わる前にロイが言った。つっこむべき所はそこではないと思うのが、一同の意見だった。

「え?それは、えーと…、私の先輩だからですが…?」
「違う。すまない、言い方を変えよう。なぜ少尉や中尉が君の先輩にあたるのかと聞いているんだ。」
「あ、ごめんなさい。私が士官学校に行ってたときの先輩なんです。」
「…へぇ。そうなのか。」
そう言ってロイはハボックの方を見た。後ろに黒いオーラを漂わせて。

『中尉ならまだ許せるのだが、少尉が「先輩」と可愛い声で呼ばれるなんてこと、許すまじ、少尉。後で燃やすか。そして彼女は頂くよ。』
『ヤバイ、大佐のこと気に入ったかな?こりゃ先輩として護ってやらねーと。大佐の毒牙から。』

「これからよろしくお願いします皆さん。」

ロイとハボックが睨み合っている中が言った。彼女は少し場の空気を読むのに疎いようだ。

「ええ、よろしくね。准尉。」
「ハイ。何か、中尉って呼ぶの慣れないです…。」
「そのうちで良いわ。」

と。

「今夜歓迎会としてどっか飲み行かないか!」
ハボックがロイから目をそらして提案した。二人とも、ずっと睨み合っていたのか。

「いやいや今日は私と2人で食事に行かないか?これからのために君のことをよく知っておきたいのでね。」
「何言っているんですか大佐。バカ言わないで下さい。」
間髪入れずに返された。

「でも、良いわね歓迎会。はどう?」
「行きたいです。はい。」

「大佐奢ってくれるんスよね?」
ハボックがそう聞いたが、相手にされるはずもなく。
「何故私が奢らねばならんのだ。」

「あ、でも私まだお金全然無いんです。どうしましょう先輩。やっぱり今日は…」

「よし良いだろう。私が奢ってあげるよ。」

大佐は切り替え早いんスよー!!ハボック貴様の為ではない准尉の為だ!そんなこんなでみんなが騒いでるところ、中尉が言った。

「はい、じゃ、仕事始めましょう。」
「・・・。」
「・・・。」
未だ彼女に逆らえる者は居ないのだった。

「はい!で、先輩、じゃなくて中尉、まずわたしは何をすればいいでしょう?」
「とりあえず他の部屋にも挨拶に行ったらどう?此処にいる人だけじゃないのよ。ここは広いから。」

それを素早く聞きつけたロイはさささと、に近づいた。
「では私が一緒に行こう!」

「いいえ、とりあえず机の上が片付いている私が行きますので大佐はどうぞご自分の仕事をなさっていて下さい。この期に及んで大佐に負担を増やさせるわけにはいきませんから。」

何故この人はこれだけ話して噛まないのだろうか。きっと滑舌の練習をしているに違いない。これ、想像したら相当面白いぞ。と思ったのはハボックである。

「では一旦失礼します。中尉お願いします!」

彼女たちは一礼すると、軽やかに部屋を出ていった。




――私の仕事場は、どうやらとっても楽しいところのようです。



fin...



どうやってこの話を続けたらいいのでしょう?
とりあえず次の話は歓迎会でもします。
ロイ夢じゃない。ロイ夢にしたい。
あぁぁぁ。
頑張ります。はい。

誤字とかあったらこっそり教えて下さい。

04/09/23 初出
07/01/02 修正