小さい頃の飴細工を思い出した。それは文字通り飴色で、綺麗な鳥の形をしていた。
慎重に慎重に扱わなければ壊れてしまうから、と。何度も言われたのに、結局羽根をもいでしまった記憶がある。子供心に悲しかった。















飴細工















「三橋っ!一旦休もう」
マスクを取ると、風が直接顔に当たって清々しい。


真夏のグラウンド。
かんかん照りの太陽の所為で、地面からは陽炎がたつ。
ぶっ倒れそうな中で練習をしていた俺たちも、花井の呼びかけで休憩をとる。

「あ、阿部くん…オレ、ま、まだ平気…だから、その」
「駄目だ!ちゃんと日陰に入って休憩をとれ!水分をとれ!汗を拭け!続行なんて捕手の俺がゆるさねぇ!」

「うっ…あ、ご、ごめなさ…っ」
「チッ」

三橋は、すぐにビクついて、泣く。
泣かせたくなんか無いのに。
俺は、別に怒ってなんか、無いのに。

「あーもう!」
暑さの所為でイライラもいつもより3割増しだ(当阿部比)。

「阿部、く…でも…」
三橋は目を合わせようとしない。都合が悪いといつもそうだ。

「でもじゃねぇ、休めって言ったら休むんだ。お前のこと心配してんだぞ。こんな中で倒れたらどうするんだ。俺らのエースはお前しか居ないんだ。俺はずっと三橋の球を捕るんだろ?」
「う…」
「分かったか?分かったら返事!」
「…うん!」

うなずいた顔には、たった今溜めた涙が残っている。

手を伸ばして、ふと止める。何故だか、思い出した、飴細工を。
何故連想したのか。怒ったらすぐに泣くし繊細そうで、髪も飴色で、
そう、手を触れたとたんに壊れてしまいそうな――…。

俺はまた壊してしまうだろうか。俺の所為で、俺の手で、三橋を壊してしまったりするだろうか。

「ど、したの?」
「いや別に」

壊したくない。大丈夫、俺は、壊さない。

意を決してその頬に触れ、涙を舌で掬う。舐めたらきっと甘いんだろう、なんか思いながら。舐め続けたら三橋は溶けてしまうだろうか。――それは嫌だ。

「わ、何…?!」
「あれ、しょっぱいな」

「あ、あべ…くん、俺、そん…飴じゃないんだから」

わお。
別に飴細工とか、単に考えてただけで。口に出したり何かしてないのに。何となく、俺の考えと三橋の思考が重なった気がして、少し嬉しい。


「三橋の涙は糖分で出来てるのかと、思った」
「そんな訳、ないよ…」
「うん。そうだった。さあ、早く戻ろう」


三橋は、飴細工じゃない。でも、きっと、脆いんだ。
だから俺が、しっかり守ってやる。
子供の頃のような、嫌な思い出を繰り返してたまるか。





「なあ、阿部ー!お前ら今チューしてた?チュー!」
みんなの集まる方に戻ると、遠くから見ていたのだろうか、田島が大声を上げる。
その声を聞いて皆も騒ぎ出したら面倒だ。

「ばっ、おまっ、違う!違うよな三橋!」
「う、ん…阿部くんは、オレの、ナミダ…」
「あーっ言うなそれ以上言うな!何でもないって、なあ田島!」

「花井ー、阿部の焦り具合アヤシーよな?な?ゲンミツに!」

「…もう、お前らとりあえず俺の指示通り休憩とってくれないか」



fin...


06/08/15


一回、あめざいくを、阿部細工って打ってしまって、しばらく悶絶した覚えがあります。