今日は中学生になって初めての身体測定だ。

あたしが身体測定が嫌な理由。

背が低いから?
いやいや、あたし結構高い方ですよ。
体重?
それも違う。自慢じゃないけど、自分は細身だと思う。

理由は、あたしの幼馴染み、三村信史にある。












背くらべ












話の始めは小学生の時にさかのぼる。


小学6年生の身体測定。

その時のあたしの身長は、信史よりも1cm高かった。
1cmなんて、と思うかもしれないが、
この差はかなり重要である。

勉強も出来る、スポーツも出来る、
幼馴染みのこの男に勝てる物は、身長しかなかったから。

あ、いや、ちょっと訂正。
勉強でも、国語だけは勝てたんだった。
信史は国語は苦手だから。

因みに豊は、今も昔もあたしより少し小さめ。


「ふふん、今回もあたしの勝ちだね信史クン?」
「はっ、そのうち俺だってぐーんと伸びるんだよっ」

「ま、せいぜい牛乳でも飲んで頑張れ」


なんて言って、小学生も終わって。


バスケをやっていた信史は中学に上がる頃に
ほんとにぐんと伸びた…。

中学に上がったときには、いつの間にか抜かされていたのだ。




そして今日、遂に身体測定。
もう信史が大きいという事は分かっている。
これは諦めるしかない。

しかし、その差が明確に分かったしまうのだ。
そしたら信史はどのような反応をする?

笑う?
慰める?

その反応が嫌なのだ。

くそ、休めば良かった!
あたしの馬鹿馬鹿!



さん」

先生に呼ばれる。
遂に運命のカウントダウン。

「はい…」


測られているときの心臓の鼓動は、
とてもじゃないが尋常じゃなかったと思う。

身長体重ともに、ちゃんと成長していましたよ。
それでも、信史より小さいのは変わらない事実で…。



そして今日の日課は終わり。

学期の始めは授業が少ないから良い。
明日っからちゃんとした授業が始まるんだけど。

信史と豊を呼びに行こうと(クラス違うからね)廊下に出ると、
そこで二人とばったり会う。

「あ」


ほら見て、信史のあのイヤらしい笑みを。
こっち見てニヤニヤしちゃって
気持ち悪いっ。

もう、何もなかったかのように振る舞ってやる。

「帰ろ?」
あたしは二人の前を歩き始める。

「え、…あぁ」
「う…うん。帰ろう」

少しキョトンとした声を出す二人。



「何?」
動揺を隠し通せるか…。

「いくつだった?」
「ん、何、聞こえない」

あたしはあからさまに信史にガンを飛ばす。

その様子を見て、豊が
「ごめん、俺、先帰るね。あとは二人でごゆっくりっ」
と言って、先に行ってしまった。

まあ、それが正解だろうよ豊。
これから喧嘩が始まるだろうからね。

「お、おい、豊!ごゆっくりってなんだよ!」

「あたしら二人きりにしてくれたんだよ、優しいね」
ザ・棒読み…。

「…ま、いいや。俺らも帰ろう」

階段を降りてゆき、昇降口から、校庭へと出る。


「で、いくつだった?」
先程と同じ質問を繰り返す信史。

「言わない」

「教えろよ。
 まぁ、俺の方が大きいって言うのは分かってる事だけど?」

これには頭に来た。

「わーったよ!教えりゃいいんでしょ?!
 159でしたー!」


「ぷっ」


今、笑いやがったなコノヤロウ…!!



「信史は?教えてよね!」

「俺は165、以上」
「何? 以上って」
「正確に言っちゃったら可愛そうだし〜」


 ム カ つ く ! !


「神様!どうして男子はこんなに伸びるんですか?!
 いじめですか?!」

校庭にその声が響く。
あたしの声は、普通の女子と比べたら、格段に大きいと思う。

隣で信史がくすくすと笑っている。
ほら皆さん、三村信史の素敵な笑顔ですよ。
とくとご覧あれ。なんて。

「いやいや、いじめじゃねぇだろ。
 俺はお前が言った通りちゃんと牛乳を飲んだんですー」

「牛乳だけで伸びたらみんな苦労しねーんだよ!!」

あたしはスクールバッグを振りかざした。
“どごっ”
見事にクリーンヒット。

「ってぇ…」
「あ〜ら、ごめんなさぁい?」


そしてしばらく信史は腹抱えたまま歩いていた。
その隣をあたしは眉間にしわ寄せて歩いた。

「‥‥‥」
「‥‥‥」


「なあ、そんなにイヤ?」
信史が少しあたしよりも前に出て、振り向き様に聞いた。

あたしは一応聞き返す。
「何がよ?」
多分、小さい事、についてだとは思うけど。


「あのさ、俺としてはやっぱお前より小さいっていうのは、
 格好悪くてイヤだし。それに」

「それに、何?」







「それに、は小さい方が可愛いと思うよ?」







「はァ?」
あたしは突然の一言に素っ頓狂な声を出す。
目を見開き信史を凝視する。

「だからぁ、は小さい方が可愛いんだよって」

何を言っているの?
アナタ馬鹿ですか?

ふいっと顔を背ける。
「あたしの何処が可愛いんだよバーカ」

「ほらほら、照れない」
「照れてないから」

「だってこうやって隣同士で歩くんだったら、
 俺が大きい方が絵になるじゃん」

「じゃ、あたしは信史よりも背ぇ高くなって、もう一緒に歩かないようにするわ」

「えぇ!」
「嘘」

ちょっと考えた。
“可愛い”
そんなもんか?身長ってのは。


「じゃあ、良いや。もう身長伸びなくて」

「え、良いの?」

「うん。でも、信史は頑張って背伸ばしてバスケで活躍すれば良いよ」

は?」

「信史くんと並んで歩いて絵になるように努力しまーす」

「え?マジで?ホントに?」
「嘘でーす」

でも、あながち嘘でもないかも知れない、多分。
信史と並んで歩くのはこれからもそうだろうし。


「ねぇねぇ
「何?下らないことだったら聞かないよ」

「手、つなご?」
「やだね」

「絵になるよ?」
「だから嘘だっつーの」

誰がつなぐか、あたしら中学生だぞ。
お前のファンの子だったら泣いて喜ぶだろうがね。

しかし、信史はあたしの手を取った。
嫌だと言っているのが分からないのか。

「離せ馬鹿」
「離さないもーん」
「キモい」
「ちょっと傷ついた…」



結局手を離さないままの信史の方を見た。
否、見上げた。
改めてこの身長差に気付く。

そしてあたしは思った。

「信史も」

「なーに?」
信史はあたしを見下ろす。

この状況だと今のあたしは、アレだ。
えっと、“上目遣い”ってやつ。
どうだ、可愛いか。







「信史も、背が高い方が格好いいよ」







「…え……?」



これはきっと事実。



別に信史のことなんて好きでも何でもないけど、

でも、実際、背が高くて格好いいのは認めてやるよ。



なんだか、背が小さいってのもどうでも良くなってきたから。








...END .........







あとがき



はい、お題2番目でしたー。
途中からキャラぶっ壊れまくりでスミマセンでしたー。
このバカップルどもめ!!

ヒロインさんは三村と手繋いで登下校、なんて絶対に嫌がってます。
一緒に帰るのは別に構わないんですけど。
家近いですしね。

三村を下から見上げたときに魅力に気付いたヒロインです。
そして当の三村は上目遣いにドキドキです。

毎度毎度下らない話を読んで下さって有難う御座います。
誤字脱字等ありましたら、どうぞ突っ込んでやって下さい。


05/4/9 17:57  リョウコ