天界。
小林、犬丸、両方は担当の生徒を見つけ一時天界に帰ってきている。
「ようワンコ!」
「あ、先輩こんにちは」
「お前もう担当する中学生は決まったのか?」
「えぇ。一週間ほど前に。先輩の方は?」
「俺の方は良い奴を捕まえたぜー。もう可愛いの何のって!」
「え、女の子ですか?」
「んにゃ、植木耕助、正真正銘男だぜ?」
「は、はは。そうですか」
「お前の方こそどうなんだよ」
「僕の担当も男の子ですが。とっても良い子ですよ」
「ソイツのこと好きか?」
「親友ですよ!」
「ふーん」
そこで小林は一旦間を置いて。
「で、ソイツとどこまで行った?」
「は?ど、どこまでって?」
「キスぐらいはしたんだろ?」
「キ、キスなんて?!そう言う先輩はどうなんですかっ!?」
「おう、もうばっちりだぜ?」
「はあ」
「人間界帰ったらすぐ会いに行けよ」
「はあ。まあそのつもりですが」
どうしようもなく君が好き
ぴんぽーん。
「佐野くん、佐野くん、犬丸ですが、居ますか〜?」
(小林さんに言われたとおり佐野くんに会いに来てみましたが、留守でしょうか?)
試しにドアノブを軽く捻ってみる。
かちゃっと音がしてノブは簡単に回った。
「あ、開いてる…。不用心ですね。…お邪魔します」
玄関には佐野のものと思われるブーツがあった。
(居る…みたいですね)
「佐野くん、犬丸です。玄関が開いていましたので入らせて頂いたのですが…」
返事は返ってこない。
犬丸はそのまま部屋へ進む。
と、そこにはソファの上で佐野が眠っているようだった。
ソファの前のテーブルには手ぬぐいが散らばっていた。
(能力の練習でもしていたんでしょうか…)
犬丸の与えた能力は“手ぬぐいを鉄に変える能力”だ。
「佐野くん、起きて下さい…バトルについての説明があるんですが」
「…すー…すー」
よく眠ってしまっているようで起きる気配がない。
少し肩を揺すってみる。
「…んー」
「起きま、せんね。起きるの待ってますか」
佐野が寝ているソファの端に犬丸は腰掛ける。
改めて犬丸は佐野の顔をまじまじと見つめる。
今佐野は手ぬぐいを頭に巻いていないため髪がいつも以上に顔にかかっている。
犬丸はその髪を左右に払ってやった。
「ん…」
「うわぁ、サラサラの綺麗な髪ですね」
髪を払うと左目付近の火傷が目に入る。
何の気なしに、犬丸は手袋を外し、火傷部分をなぞってみた。
やさしく。壊れ物でも扱うように。
「…ん、や…ぁ」
佐野は犬丸の手をはたく。
「っえ!あ、その、佐野くん起きました!!?」
(な、何赤くなってるんです僕…!!)
しかし、犬丸が驚いたのとは裏腹に、また佐野は寝息を立て始めた。
「まだ寝てる。可愛い子だなぁ…」
ぽつりと、口をついて出てくる、可愛いという単語。
(ほんとは今のワンコの驚いた声で起きたんやけど…おもろいから寝たふりしとるか)
犬丸は佐野が起きたことに全く気が付かない。
「はあ。佐野くんと出会ってもう一週間ですか。はやいなぁ」
火事の銭湯の中で交わした会話が思い出される。
そしてその次に思い出したのが小林の言葉だった。
―― ソイツとどこまで行った?キスぐらいはしたんだろ?
その言葉に犬丸の心拍数が変化する。
(そりゃあ佐野くん可愛いし好きですし、僕だってあんなコトやこんなコト、はたまたそーんなコトまで、したいかしたくないかって言われたらしたいに決まってるじゃないですか…でも恥ずかしいですよそんなの…!)
犬丸は頭を抱えて悩み出す。
今この部屋には犬丸と佐野の二人だけ。
今佐野は眠っている。
この状況下で犬丸が理性を保っていられるのも時間の問題のようだ。
(ワンコ…どないしたんやろ、急に黙ってしもた?)
「…んぁ…ワンコ…」
佐野は出来る限りの甘い声で言った。
「え?寝言…僕の夢でも見て…?」
ぷつん。
犬丸の中で何かが切れた。
「よし!」
犬丸はソファから立ち上がる。
(な、何が『よし!』なんや?)
犬丸は再び佐野の火傷に触れる。
「寝ちゃってますよね?佐野くん?怒らないで下さいね」
そして、今度は唇に先程の指とは違ったものが触れた。
犬丸のシャンプーのにおいがふわりと香る。
(え、まさか…?)
おそるおそる目を開くと、そこには間近に親友の顔。
「んぅ!?んっ…!」
「ぷは。あ、起きちゃいました佐野くん?」
「起きちゃいました?やないわ!!何しとんねん!?」
「キスです」
「何真面目に答えとんのや!そないなこと聞いとるんちゃうわ」
「じゃあ何ですか?僕はしたいからしただけです」
「したいからって、ほんじゃ俺の気持ちはどうなんねん!」
「佐野くんの気持ち…?え、佐野くんは僕のことキライですか…」
佐野の目の前で、みるみる犬丸の瞳が潤む。
うっ・と言葉に詰まる佐野。
「嫌いやない…。そりゃ好きやけど…」
「じゃあ、キスしたって良いですよね?」
犬丸の顔にたちまち黒い笑みが広がる
「う、嘘泣きかい!」
「僕泣いてなんかいませんよ?」
「卑怯やー!」
「何とでも言って下さい。それでは許可も得たことですし、いただきます」
再度口付けをする。さっきよりも強く深く。
「ん、やめ…!ワン、コぉ…」
佐野が口を開いた隙に舌を侵入させる。
佐野は逃れようと頭を動かそうとするが、がっちりと犬丸に固定されてしまっている為に動かない。
(は!そうやった!ワンコは握力ものっそ強いんやったわ…!やば…)
舌が絡め取られ、否応なしにも佐野は犬丸に翻弄される。
必死に抵抗しようにも体に力が入らなくなってくる。
執拗に口内を掻き回され佐野も息が上がってきた。
「んふ…ぅ、ワ、くる…し…んんぅ!ふ…ぅんっ」
力の入らない腕で犬丸を押し返す。
目には、先程の犬丸の嘘泣きのようではなく、生理的に零れた涙が溜まってきた。
(こんな顔されたらもっと苛めたくなるじゃないですか佐野くん。でも、そろそろ限界ですかね…)
犬丸が唇を離すと、つ・と銀の糸が引かれ、ぷつんと切れた。
佐野が肩で息をしているのに対して、犬丸は至って涼しい顔をしていた。
「気持ちよかったですか?」
「はぁ、はぁ…。いい加減に、せぇや。俺も、そろそろ、怒るでぇ?」
「佐野くんが」
「あぁ?」
「佐野くんがいけないんですよ…!」
「何で俺が悪いねん!?」
「大体佐野くんがあんまりにも可愛いから僕は、僕は!第一あんな無防備な格好晒して寝てたら誰だって理性吹っ飛ぶに決まってるじゃないですか!チラリズムが過ぎるんですよ佐野くんは!それにあの寝言なんですかどう考えても僕を誘ってるようにしか聞こえないんですよあんな甘い声で囁かれたら!そもそも何で玄関が開いてるんですか?もし僕が来る前に泥棒にでも入られて、佐野くんが可愛いからって強姦なんかされたらとかそういうコト考えないんですか?!もう心配で心配で…僕はなんて無力なんだー!」
一息で言い切った。
今度は犬丸が息を荒げている。
「あのなぁ。玄関開けといたのは今日犬丸が帰ってくるゆうとったからや!まあ、遅いからつい寝てしもたが」
「え、僕の為…ですか?」
「そや。ったく、何やねん強姦て、何で泥棒がホモ前提で話進めとんねん」
「いや、佐野くんがかわい」
「もうええわ。てか」
「ん、何ですか?」
ここで犬丸は佐野の頬が赤くなっていることに気付いた。
それはキスの所為なのか、それとも。
「寝てん時にしなくてもええやん」
「え?」
「あーもう!起きてる時にすればええやろってゆうてんねん!これからずっと一緒におるんやから…」
言うと佐野は、ふい・と横を向いてしまう。
先程よりも赤く染まった横顔。
「さ、佐野くん…!」
犬丸は何も考えずただ佐野を抱きしめる。
「ちょ、やめろや、苦しい」
「佐野くん、僕君のことが大好きです」
「…分かっとるわそんなもん」
Fin...
戯れ言
ぷつん・の辺りから黒犬丸登場させてみました。
後半の犬丸の壊れ具合をもうどうにかして下さい。
だってこのバカップル書いてるうちにどんどん暴走していくんだもん…!
犬丸の使ってるシャンプーはモッズですよね?(にこ
06/01/08 22:28