「バトルに、選ばれた…?」
「そや」
「は?え、バトルって何なん?」
部屋に入ってきて開口一番彼氏にそんな事言われたら、誰だって驚くワケで。
「神候補っちゅう奴らがおってな、そんで中学生同士が戦うんよ」
「意味分からへん、ちゃんと説明せい」
――100人の神候補が各々一人ずつ中学生を選び、戦わせ、その中で優勝した中学生の担当神候補が、神になれる。
――担当神候補は中学生に何かしらの能力を与え、中学生はそれを使い戦う。
「て、こないな話信じられへんわ!」
手首のスナップを使い、素晴らしいつっこみを入れた。
ファーストキスをお守りに
「信じられへんったって、現にオレ、能力もってんやで。見てみ」
彼氏、もとい、佐野清一郎はそう言うと、頭に巻いている手ぬぐい(そう言えば前々から、彼のこの浴衣に手ぬぐいスタイルが気になっていた。中学生がやで?中学生が普通に道とか浴衣で歩いてんねんで?おかしいやろ)を解くと、すう、と息を吸った。
「能力てそんな、どないやねん?」
そのまま、息を止めた。
すると手ぬぐいは、光沢のある金属になり、窓から入る日の光を跳ね返していた。その光がの目に眩しかった。
「え、ちょ、待ちや!鉄や!鉄!?」
は驚きバランスを崩しソファーから落ちる。
「アホか。 どや、これがオレの能力や」
清一郎が息を止めるのをやめた瞬間、鉄の手ぬぐいは、ただの手ぬぐいに戻った。
「息を止めている間、手ぬぐいを鉄に変える能力」
「は…そりゃ、凄いわ。ほんまに…」
ソファーに座り直し、は理解しようと頭をひねる。が、どうも理解に苦労する。
ただ、目の前で、それこそ、この世で起こりえないものを、見せつけられたのだから、そこは認めざるを得ない。
「清一郎も座り?いつまで立ったままなんよ」
「それもそうやな。お気遣いおおきに」
「ちょっとそれ貸してみ」
「これ?何もないで?ほら」
清一郎の言うとおり、何の変哲もないただの手ぬぐい。柔らかくて、手触り良くて、
「あー、清一郎のかおりやー」
「やめんかアホ!キショいわ!」
「ちぇ。返すわ」
清一郎は手ぬぐいを受け取ると手際よく頭に巻いていく。
「ちょっと待って、まだ付けんといて清一郎」
その手ぬぐいを再び由美が引っ張る。
「何で?」
「そのままの清一郎が格好いいから」
「…ほんまどうした?お前、今日おかしいで?いつもそんな事言わへんのに」
「どっか行くの?バトルっちゅーんで」
それは今の問の答えとしては成り立たなかったが、清一郎は気にせずに答えた。
「…そう、そうなんや。ちょっとの間稲穂中って所に転校するんやけど…」
「やっぱそうなんや。嫌やー」
「それ、ほんまに嫌やと思っとるん?何なんそのやる気の無さそうな言い方」
「嫌やー、清一郎、そんなんいきなりやん…」
はそのまま手ぬぐいに顔を埋める。
「仕方ないやろ」
「何で一人で決めるん?」
手ぬぐい越しの声だったのでいくらか聞こえづらかったが、怒っているようだった。
「何でお前に相談せなあかんのや?オレの勝手やろ」
「勝手ちゃうわ!清一郎のアホ!」
「アホってなんや!何怒ってんねん!」
清一郎もついカッとなって怒鳴り声になる。
「うー。嫌やもん…清一郎、居ななったら…寂しいわ」
「もしかしてー、、泣いとる…?」
「泣いとるよ、悪い?」
「や、すまん…」
清一郎はの肩を抱き寄せる。
「ほんまに、すまん。怒ってしもて」
「あほあほあほあほあほー…」
由美は未だ顔を埋めたまま清一郎に頭突きをする。
「痛い痛い。そうやな、オレはあほやなー」
「有り得へん。何でよ、何で。清一郎が、どっか、行くなんて」
「頼むから泣きやんでや」
から手ぬぐいをとる。泣いてる顔も可愛いなと、ちょっと思った。
「行かんといて」
「悪いけど、それは無理や」
「嫌や。じゃあうちも連れってって」
「それも無理や」
の目からまた涙がぽろぽろと落ちていた。
「うちのこと、嫌いになったん?」
「そうやない。大好きやで、お前の事」
「じゃあ、何で?」
「う・・・」
「答えてな清一郎」
清一郎はの両肩を掴み、自分の正面に向かせる。
「お前の事、守りきれる自信がない。オレは、弱いから」
「清一郎は弱くない」
運動だって出来るし、喧嘩も強い。以前が不良に絡まれている時に、清一郎が助けた時があった。あっさりと片付けていた。そう言えば、あれが付き合うきっかけやったっけ。そう思うと不良万歳?おおきに?
「いや、弱い。能力者達と戦うんや。そんでにもしものことがあった時、守れなかったら嫌やから」
「え、どういう…」
「オレと一緒におったら、お前まで危険になるやろ」
清一郎はとても真剣な目でを見ていたので、視線をそらす事が出来ない。
「だから、しばらくは離れて、オレが強なってお前守れるようになったら戻ってくるさかい」
「戻ってくるん?」
「ああ、必ず戻ってくるで。待っててや」
「…怪我、せんといてな。間違っても死んだりせんで、必ず帰ってきてな」
「約束するわ」
ぎゅっとの事を抱きしめ、これからしばらく会えなくなる事を考えると、やはり残っていたいという考えが清一郎の頭の中をかすめる。
「清一郎」
「ん?何や?」
「これ、うちにくれへん?」
が指差しているのは温泉マークの手ぬぐいで。
「いやいやいや、ちょっとなぁ。わいそれないと能力使えへんし」
「だってなんか寂しいやん。清一郎、なんか頂戴」
「んー、じゃあ」
ちゅ。
清一郎はに軽く口付けをする。
「な、何するん?!!」
「なんか頂戴って言ったやん」
「だからって何で、キ、キ、キス、するんや!」
の赤面している様子を楽しむ清一郎。
「オレの唇をあげます、っちゅーことで」
「ぶーっ!さぶい、さぶい!」
「つれないやっちゃなぁ」
大げさに、清一郎は肩をすくめる。
「てかさ、初めてなんやけど?」
「うわー、ほんま?やった。お守りにするわー」
「お守りって…」
「オレにはかわいい彼女が待っててくれるーって」
「なんやそれ」
の手が清一郎の顔へと伸びる。そして引き寄せる。
「今度はうちからするから」
「どーぞ?」
「バトル…頑張ってな」
「ああ、待っとってな」
今度はさっきよりも少し長いキスをした。
佐野清一郎が、植木達に出会う少し前のお話。
おまけ。
「手ぬぐい、持っててどうするつもりやったん?」
「抱いて寝る」
「(か、かわいい…)むしろオレがお前抱いて寝てええか?」
「…さっさとどっか行っちまえ」
05/10/24 23:42